自分が作ったものではなく、友人キャーラの作った料理の投稿です。
同名のキアラ、キャーラという友人は何人も登場していますが今回のキャーラはこの時のキャーラ。でもこれは、私が彼女のために作った物。今回はキャーラが私のために作ったもの。
https://note.com/kajorica/n/n572437d83e7a
これは先週末ヴェネツィアの新居でキャーラが作ったサン・ピエール(イタリア語ではサン・ピエトロ、日本語ではマトウダイまたはサン・ピエール)のオーブン焼き。
土曜の朝のこと。今日のランチはもう一人お客様があるのだと、リアルト橋に近い有名なヴェネツィアの魚市場に出かける。
前日買いそびれたムール貝もあったが、その日のキャーラの視線は別の魚の上に落ちていた。
残念ながら魚市場の全体写真は撮り忘れ。。。
隣で注文していたおじさんが、「サン・ピエールはこの世で一番美味しい魚だよ。」という。
実は私はこの魚を見るのは初めてだった。キャーラも料理はしたことは無い様子でどんな風に料理するのかとそのおじさんに尋ねると、ここで魚屋に切り身にしてもらって、パン粉の衣をつけてバターで焼くのが美味しい、と教えてくれるが、「パン粉」と「バター」というのがキャーラも私もなんと無く気に入らない。バターのたっぷり染み込んだパン粉が魚の味を壊してしまいそうな気がする。二人で顔を見合わせオーブンで焼こう、と決める。
サンピエールを丸々1匹購入。トゲトゲの尾鰭背鰭と内臓は魚屋に捌いてもらい、オーブンで丸ごと焼くなら約40分という魚屋のアドバイス。
トゲトゲの尾鰭背鰭と内臓を捌く魚屋
青い幕の向こう側では御馳走を狙ったカモメが待っている。
私が手際悪くオクラのヘタをとっている間にキャーラは手際良くオーブンのトレーにサン・ピエールを置き、そのままオーブンに入れられる様に用意をした。あっという間で見事だった。
唯一心配したのはオーブン皿ではなく、トレーにそのまま入れたので、どうやってテーブルに運ぶつもりなのかということ。
その問題は約束の時間にやってきたカルラが簡単に解決してくれた。
ヴェネツィアのキャーラの新居とヴェネツィア滞在の話はレシピの後に。
<材料> 3、4人分
・サン・ピエール 1尾
・黒オリーブ 約100g
・プチトマト 約250g
・レモン 一切れ
・塩
・オリーブオイル
<作り方>
1・オーブン皿にオリーブオイルを敷き、魚を中央に置く。
2・半分か4分の1に切ったプチトマト、オリーブを散らす。
3・180度のオーブンで40分間焼く。
いつまでも写真を撮っているのはマナー違反なので、テーブルにセッティングした写真は撮れませんでした。。。
*****
ヴェネツィアのキャーラの新居とヴェネツィア滞在
二年半前キャーラが社長をしていた欧州でも屈指の高品質で知られる大手製紙会社を退職した日、「今晩ミラノなの。会社辞めたから乾杯しよう!」と呼び出しがかかり、もう一人の彼女の友人と3人で夕食をした。
その後暫くして「もうヴェローナにいる理由がなくなったからヴェネチアに家を買った。」という話を聞いた。彼女はとても裕福な家庭の出身の上、稼ぎの良いマネージャーなのでヴェローナに二軒とロンドンに一軒家を持っていて、更にもう一軒ヴェネチアに家を買ったと言われても特に驚かなかった。
「濡れている者の上にだけ雨が降る。」と言うイタリアの諺がある。
貧乏人ばかりが損をする、と言う様な意味で、イタリア社会を言い得て妙だからか頻繁に使われる諺でもある。
彼女はその正反対。「からりとした清潔な服を着ている彼女の上には、いつも陽の光が注がれている。」と言う感じ。でも裕福な家庭で甘やかされてロクデナシに育った良家の子女も多く見ているから、そんな環境でも健全で正当な価値観を持って成長したある意味貴重な存在でもあり、付き合いやすい人だ。
昨年12月のある土曜の朝にいきなり電話がかかってきて、「いま家の前のメルシェにいるから降りてこない?」と言う。
以前似た様な事があった時、私は早朝からベッドでドストエフスキーを本の中に埋没する様に読んでいた。すっかり本の中の世界にいたので申し出を却下した。今考えれば失礼ことをしたと思うが(笑)19世紀のサンクトペテルブルグから21世紀のミラノには5分では戻ってこれないのだ。
その朝は5分で着替えてメルシェに降りて、二人でバールで朝食をとり、ヴェネツィアの家の照明器具探しを付き合うことにしててヴィンテージショップをハシゴした。
歩きで移動しながら会社経営時代は色んな人に仕事を依頼していたのに、それがもう出来ないのが経営者を辞めて一番残念な事なのだという。
だから、と、庭に置く大理石のテーブルのデザインをしてくれないかと言う。既にある大理石を使って、と。
デザイン設計料というのは普通作成費に比例するので最も高額な材料が既にあるというのは設計者にとっては割の合わない仕事とも言える。若くてバリバリ仕事をしていた頃はそういう仕事は断っていた。でも年齢と共に、どんどん新しいものを作るより、既にある物に愛着を覚えたり大切にしたり、時には繕って使う方がずっと奥行きがある生活の様に思えてくる。
ビジネスベースでどんどん新しい材料を消費して、どんどん稼ぐ、そしてどんどん経済が回る、みたいな構図の社会と経済に嫌気がさして来て10年以上になる。しかも元クライアントとは言え友人の頼みなのだから、と迷わず依頼を引き受けた。
諸事情あり現場の下見に行くのが遅れ、先週の金曜の昼前にヴェネツィアのサンタ・ルチア駅に着くと、買い出しをすべく魚市場に向かっていたキャーラから「何か食べられない物あったっけ?」と電話が入る。甲殻類のアレルギーだと答えると、「じゃあムール貝はやめるわ。」と。「ムール貝は貝類で甲殻類でないから食べられる。」と私。
でもその日のランチにはムール貝は無く、代わりに美味しいトレヴィスのパスタを作ってくれた。
魚市場のおばさんに「あなたこんな時間にきてムール貝があるとでも思ってたの?」と言われたらしい。
新居は、というと、2階だけで300平米以上ある。それに地上階のエントランスとミニアパートと広い庭が付いていた。
元々裕福な人が作らせたと思われるグレード感の高い気持ちのいい空間とディテールに凝った高級な建具付きだったので大きな工事はしなかったというが、キャーラの良い趣味で家具がしつらわれエルデコのトップ記事になっても不思議はない様に改装されていた。
午後は測量の後、少し観光。その後家に戻り概ねどんなデザインのパターンが考えられるかスケッチを起こす。家に持ち帰ると宿題になるから、その場で進め相談したいことはキャーラがいるときにした方がお互いに好都合。
夜は外食し、面白そうなコンサートもないから家に帰って映画でもと歩いていると、昼間閉まっていた近所のサンタ・マリア・グロリオーザ・デイ・フラーリ聖堂(Basilica di Santa Maria Gloriosa dei Frari)の脇のドアが開いている。きっと何かイヴェントがあるのだろうと入ってみるとアメリカの私立高校の生徒のコーラスのコンサートだった。かなりのハイレベル。あの高校生たちにしてもヴェネツィアのこんな由緒ある教会の、ティツィアーノ(イタリア、ルネッサンス期を代表する画家の一人ティツィアーノ・ヴェチェッリオ、イタリアでは一般的に「ティツィアーノ」で通じる)の名作の前で合唱するなんて、どんな気持ちがするものかと想像してみる。
ティツィアーノの名作『聖母被昇天』
*****
翌朝はリアルト橋に近い有名な魚市場に行く。ミラノの魚屋に比べると種類が豊富。
冒頭に書いた様な経緯でオーブンで焼く様にサン・ピエールを丸ごと一尾、夜トレヴィソに住むお母さんのところに持って行くのだとアンコウを一尾と菖蒲の花束を買った。
「家に戻る前にアペリティーボする?」と聞くので
「私に払わせてくれるならよろこんで。」と答える。
昨晩のアペリティーボも夕食も彼女が払っているのだ。
家に戻り、二人で食事の支度をする。
サラダは既にあった物に、庭の菜園の野菜を足した。
先に気を回して心配した、どの様にテーブルに運ぶかに関しては、約束の時間通りにやってきたカルラが「銘々皿に取り分けましょう。私がするわ。」とそれは見事な手つきで丸ごとの魚を3枚の皿に取り分けた。
デザイン家具のメーカーの経営からリタイアして1年前にヴェネツィアに引っ越してきてキャーラと知り合ったというカルラとは初対面だったが、その見事な魚の取り分け方で彼女の第一印象は素晴らしいものになった。
やっぱりお料理は上手な方が素敵だ。
井戸の水汲み用の銅のバケツが天井に並んで迫力。
ヴェネツィアにはこんなワインの量り売りの店が多い。
#サン・ピエール
#サン・ピエトロ
#マトウダイ
#オーブン焼き
#レシピ
#フードエッセイ
#魚市場
#ヴェネツィア
#ヴェニス
#新居
#アペリティーボ
#コーラス
#テーブルのデザイン
#大理石
#キャーラ
#リアルト橋
0 件のコメント:
コメントを投稿