2024年4月26日金曜日

ジョバンニ宅のパレルモ風イワシのパスタのランチ

 


先々週家の下のメルシェで珍しく「幻の野菜・野生のウイキョウ」を見つけたので、このレシピを投稿することにします。


ステファニア・ジャンノッティのレシピ本の「粉砂糖」(邦題:イタリアを食べる 人生を彩る食卓とレシピ)ではこのレシピの紹介はこんな文章で始まる。


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パレルモ風イワシ入りソースのパスタ


「それは生まれたところで、自然に育つ。人が空腹を覚えるように、愛を感じるように自然なこと。雑草のようにのびのびと、田舎の少女の瞳のようにシンプルに。

北ではたとえ肥料をやっても、微塵たりとも育たない。野生のウイキョウは、泥臭い南部の野菜。あなたに教えてあげるレシピは、作ろうとしてもほとんど不可能だし取れる場所も世界中でほんの少ししかない。それでもあなたに教えてあげましょう。私の大好きな、大切なレシピ。」


ステファニア・ジャンノッティ著「イタリアを食べる 人生を彩る食卓とレシピ」から

内田洋子訳

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この文章を読んでこのパスタに私は長い間憧れていた。

レシピを読んで味を想像していた。

でも実際に食べられるまで数年かかった。

決め手の食材が私の住む北イタリアのミラノでは入手困難だから。


なので、ここでは日本でも入手可能な代替えの食材も紹介します。

入手困難なのは野生のウイキョウの他ウベッタ・ディ・コリントと呼ばれる小さな甘み控えめの干し葡萄。


野生のウイキョウはディルで代用します。

シチリアの人には「ムンクの叫び」のような顔をされそうですが、シチリア人でない私には本物まで後2歩!くらいの感じに思えます。

まあ、かなりいい感じに本物に近くなります。



野生のウイキョウとディルをWikipediaのイラストで比較をしてみました。

図案で比較すると、間違え探しゲームのように異なる部分を見つけるのが難しいほど。

種子の断面が違うくらい。。。?


左:野生のウイキョウ    右:とディル


両方ともセリ科です。見た目はそっくりです。先々週買った野生のウイキョウより今週買ったディルの方が葉がやや太め。緑がやや濃いめ。

でもそれも収穫時期により変わる可能性もあるので、基本、香りと風味だけが違うと考えた方がいいかもしれません。


「北ではたとえ肥料をやっても、微塵たりとも育たない。」と本に書かれていますが、実際には北イタリアに住んでいて家庭菜園で育てている人もいます。でも肝心の香りと風味がなくなってしまうのです。春と秋にしか収穫できない風味のない野生のウイキョウより通年エスニック八百屋で売っているディルで代用した方が良いとさえ思います。



ウベッタ・ディ・コリントは色の濃い一般的な干し葡萄で代用します。

左が一般的な干し葡萄 ー 右がウベッタ・ディ・コリント



パレルモ風イワシのパスタを初めて食べたのはパレルモ出身のデザイナーのジョヴァンニの家。

その時のことはレシピの後に。


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<材料  二人分> (写真は一人分)


・パスタ  出来ればブカティーニという中に穴の空いている

                        スパゲッティのようなパスタ

        なければスパゲッティでOK  160g-200g空腹度で加減


・白玉ねぎ 小半個 白玉ねぎがなければ普通の茶色のでOK


・塩漬けサーディン 2切れ

        塩漬けサーディンがなければオイルサーディン4切れでOK


・干し葡萄  ウベッタ・ディ・コリント12ー15g

        ウベッタ・ディ・コリントがなければ色の濃い干し葡萄で代用。


・松の実 12ー15g


・野生のウイキョウ     茎付きで80g程度

                ディルで代用OK


・生のイワシ                 捌く前で約200g


・サフラン                    1袋又はひとつまみ



・塩、胡椒



*大人気の大衆郷土料理の多くがそうであるように色々なレシピのヴァリエーションがあります。


*サフランを入れない地域もあるそうです。


*ステファニア・ジャンノッティのレシピではブロッコリーも入れますが私は入れません。今まで食べたものでブロッコリーも入ったのを食べたことがなく、そのまま原型ができてしまったから。機会があればブロッコリー入りでトライしてみます。


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<作り方> 

*最短時間で作れる手順を書きます。

お鍋とフライパンの間を行き来し混乱するといけないので画像は:

<フライパン作業を左寄せ・・・お鍋作業は右寄せ>にします。


0・イワシは買ったらすぐに手開きし背骨も尾も取って冷蔵庫で保管します。

  *このレシピでは塩締めはしません。あとで塩分の調節が難しくなるので。


1・野菜とバスタを茹でるお鍋に水を入れ火にかけます。



2・1の沸騰を待つ間に野生のウイキョウまたはディルは洗って太い茎は除いておきます。


3・玉ねぎもスライスします。


4・フライパンにオリーブオイルを熱し弱火で焦げ付かないよう3を炒めます。




5・1の鍋が沸騰したら粗塩を加え2の野菜を投入し5分ほど茹でます。



6・4の玉ねぎがしんなりしてきたら、水で洗って塩を落とした塩漬けサーディン又はオイルサーディンを加えトロ火でサーディンを溶かすように加熱します。溶けない場合はほぐします。



7・サーディンが十分にほぐれたら干し葡萄と松の実を加え混ぜ、1分程度味を馴染ませます。



8・5が柔らかくなったら、水を切りながら引き上げます。すぐに茹でた湯も加え煮込むので絞る必要はありません。茹でた湯は捨てず沸騰を保ちます。


9・8の鍋にサフランを加えパスタを投入します。



10・8の野生のウイキョウを刻んで6に混ぜ、茹でた湯を加え5分ほど加熱を続けます。



11・10に生のイワシを加えたら茹でた湯を足し、更に加熱を続けます。

足す湯の量はパスタが茹で上がった時に丁度水分がなくなる程度に仕上げるので、徐々に足す方が失敗がないかもしれません。



12・パスタが茹で上がったら水を切り、11に加え良く混ぜ、塩胡椒で味を整え、テーブルに運びます。



*このパスタは熱々ではなく、ぬるいくらいの温度でサーブするのが王道だそうです。


何度も自分で作ってみると改めて、貧しい食材を贅沢な一皿に仕上げるこの料理にはやはり何か特別なものがある、と思う。






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ジョバンニ宅のパレルモ風イワシのパスタのランチ



もう二十五年くらい前のことで記憶も朧。夏服を着ていたと思うから、初めてジョバンニとパレルモ風イワシのパスタの話をしたのはバカンス前の夏頃だったと思う。


その年、メジャーデザイン誌のイタリアを代表する中堅デザイナーを特集した記事でジョバンニが近作とともに取り上げられ、彼はキャリア上とても良い時期を過ごしていたと思う。


同業者というより先輩という格だったが、共通の友人も数人いて、何かのきっかけで事務所に遊びに行ったのだった。


北イタリアでは南イタリアから北に出稼ぎに来ているようなお行儀の悪い南出身の人は差別される傾向も否めないが、反面、南出身のインテリは、プラグマティックで比較的シンプルな北の人にはない複雑で奥行きのある思考をするので尊敬される。ジョバンニは勿論後者だった。


色々とデザインの話をした後、食の話になった。

冒頭に書いたように私は何年も前からパレルモ風イワシのパスタに憧れていたのでその話をしてみた。食べた事もないのに、本で読んだ材料と作り方を暗記している私に彼は驚いていた。


そして、野生のウイキョウは春か秋の中間の季節しか穫れないから、もしもその季節にパレルモに帰省する機会があれば買ってきて作ってくれる、と約束してくれた。新鮮なものを持ち帰ってこれれば後は冷凍保存も可能だという。


野生のウイキョウを入手したからと、イワシのパスタのサンデーランチのお誘いがあったのは、それから随分時間が経ってからの事。


ランチの当日、彼の家に食事に行くのは初めてだったのに、どんなランチか何人の会食でどんな人達が来ているかなど全く想像せずにパスタだけを思い浮かべて出かけて行って少し戸惑った。


それまで会ったことのなかったジョバンニの新しい彼女は、私が好感を持っていた以前の同じパレルモ出身の彼女とは全く違うタイプで、初対面のその日は馴染めなかった。


ジョバンニが作ったイワシのパスタを、新しい彼女は「何かしら変な味がする。」と評していた。私は「こういうものか」と黙って食べた。


ランチといっても日曜のランチは午後中か夕方まで続く。他に数人、かなりタイプの違う人々がランダムに集まったという風で、私にしては珍しくその誰にも親近感を感じることができなかったが、ジョバンニにはできるだけ悟られないよう楽しいふりをしていた。

そのちょっと居心地の悪いランチが、待望の初のイワシのパスタの日となってしまった。


その後個人宅でパレルモ風イワシのパスタを食べたのは、当日に急遽企画したロベルトの誕生日夕食にアントが使った「缶詰のイワシのパスタ」。新鮮な食材で作った物とは全くの別物だったが、ネットショッピングもまだ普及していない時代にそんな珍しいものをどこかで見つけて来たアントに感心した。


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野生のウイキョウは希少だからといって値段が高いわけではない。

最近では予約をすれば取り寄せてくれる八百屋もあるが、今でもいつでも欲しい時に入手できる、というものではない。


でもこんなに便利な時代に、なかなか手に入らないものがある、というのも実は結構素敵なことだと私は思っている。

2024年4月19日金曜日

アスパラガスの美味しい料理法三種とアスパラガスの哲学的食べ方。



すっかり春でメルシェに並ぶ野菜たちも春・春・春という感じ。


春の到来を告げる野菜の一つにアスパラガスがあります。


南イタリア産のアスパラガスがメルシェに並ぶ=春、と言っても過言ではありません。


なので今週はアスパラガスの美味しい食べ方をご紹介します。


ベーコンを巻く、とか他の食材とのコンビネーションではなくて(それなら無限にバリエーションが作れますよね)アスパラガスと調味料だけでの美味しい食べ方三種です。


今週は本業のイヴェント週なので長いエピソードはなしで簡潔に。


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1・一つ目は塩茹で。


飽きのこない普遍的な味です。

アスパラガスを料理したことがある人で、塩茹でをしたことのない人はいないと思いますが、食べ方に哲学が関わってくるのであえて書きます。


<材料>


・アスパラガス人数分

*この方法は当然ながら、どんな種類の、どんなサイズのアスパラガスでも問題ありません。


・荒塩


<作り方>


1・アスパラガスは洗って、硬い部分を除いておきます。


2・鍋に湯を沸かし、沸騰したら塩を加えアスパラガスを投入します。


3・適当な茹で加減になったら(一番太い部分が指で簡単に潰せる程度)引き上げていただきます。



お皿はフレンチアンティークのアスパラガス専用のお皿。

賑々しいアスパラガスのレリーフとマヨネーズ用の窪み付き。


・フランス人はこれに自家製マヨネーズを添えます。

・イタリアでは半熟の目玉焼きを乗せる人もいます。

・私は塩茹でをそのままか、エキストラバージンオリーブオイルを少量かけただけ、というのが一番美味しいと思います。


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イタリアではこんな鍋が「アスパラガス用鍋」として売られています。



先端の柔らかい部分を壊さないように先端だけ湯から出るようにして茹でるためのものです。

https://www.amazon.it/asparagi-acciaio-pentole-hummelladen-limpiego/dp/B00011OX2E

このお鍋をセールスする意図はないのですが、画像を使用したかったので、著作権侵害で訴えられないよう、販売のリンクも入れました。


私はこのお鍋を持っていないので、先端を綺麗に残すためブライパンであまり重ならない様に茹でています。重ならない様に茹でると綺麗に仕上がります。


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昔フランス人のマタリーがミラノにいた頃のこと、二人で茹でたアスパラガスを用意し、私がナイフとフォークを手にするとマタリーが「チッ、チッ、チッ、」とNGサインを送ってくる。


怪訝な顔で見返すと、

「アスパラガスは素手で食べるものよ。ナイフ、フォークを使うなんてアスパラガスの哲学に反するのよ。」


と、フランス人特有の優越意識をチラつかせながらアスパラガスを一本手で掴んで美味しそうに口に運ぶ。


アスパラガスの哲学。。。ふーん、そんなもんなんだ、とその時は素直に従った。


イタリア人この話をしてみたら

「まあフランス人は食にスノッブだからねぇ。」とのことだった。



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2・二つ目はフライパンで焼いて塩とレモンで食べる方法。


簡単で美味!!です。


<材料>


・アスパラガス人数分

*この方法で調理する時は細めのアスパラガスを選びます。


・オリーブオイル


・塩


・レモン


<作り方>


1・アスパラガスは洗って、硬い部分を除いておきます。



2・フライパンにオリーブオイルを熱したら1のアスパラガスを

できるだけ重ならないように広げ蓋をして蒸し焼きにします。

時々転がして全体が焼けるようにします。




3・2に概ね火が通ったら、塩をしてレモン汁をかけて熱々をいただきます。



この場合はアスパラガスは油と塩とレモンにまみれていますから、フランス風の「アスパラガスの哲学」は無視して、ナイフ、フォークかお箸でいただきます。



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3・三つ目はパルメザンチーズとオーブンで焼く方法。



<材料>


・アスパラガス人数分

*この方法で調理する時はやや細めのアスパラガスの方が良いでしょう。


・オリーブオイル


・パルメザンチーズ

*ここではパルメザンチーズを調味料のように使用しています。

イタリアオリジナルの食材の中でパルメザンチーズは最も多く「旨味」を含んでいるのだそうです。



<作り方>


1・アスパラガスは洗って、硬い部分を除いておきます。



2・1のアスパラガスに少量のオリーブオイルをまぶし、オーブン皿にを重ならないように並べます。


3・2の上にパルメザンチーズを散らします。




4・180度のオーブンで20分程度焼きます。

時間はアスパラガスの太さにより加減してください。


5・火が通ったら、熱々を食卓に運びます。



この場合はフランス風の「アスパラガスの哲学」に従っても、ナイフ、フォークかお箸でいただいてもどちらでも良いでしょう。


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わたしは一人の時は、どんな調理の仕方でもアスパラガスをお箸で食べることが多い。


お箸ってカトラリーとは違って自分の手の一部のような気がするから、と哲学的に自分に許可しているのです。